翌朝、窓から覗いた空は霧に包まれていた。
食欲の湧かない小屋の朝食をなんとか腹に詰め込み、ゆっくりと身支度を整え雨具を着込んで外に出た。
ヒュッテ前の小高い丘に登ると、思わず歓声が出た。ほとんど諦めていたのだ。
圧倒的な迫力で眼前に広がる穂高連山の岸壁。前穂高から奥穂高、涸沢、北穂高、そして大キレットが大きく切れ込み、再び南岳、中岳へと立ち上がり槍ヶ岳の穂先へと続く大岩稜。それらの岩峰の上にを虹が懸かっている。むひょうのがキラキラと舞い散っている。
眼を転じれば乗鞍岳、御嶽山も雲海に浮かぶ。
ふと気が付くと背後から陽の光が差して自分の影が霧の中に映し出されている。
話に聞くブロッケン現象だ。
足元の高山植物は葉っぱの一つ一つが氷に包まれて、メノウやルビー、ヒスイの宝石細工のように輝いている。