秩父あたりの渓流はすでに解禁。かって楽しませてくれた渓流や魚の顔が、
瞼に浮かんでは消える今日この頃ですが、イマイチ気力が涌かずに通勤娯楽で気分を紛らわせております。
長い間探し求めていた太田蘭三の山岳釣り推理小説の原点とも言うべき「殺意の三面峡谷」は以前に紹介したが、
著者の釣り人生をエッセイと時代小説で綴ったのが、私の釣り文庫ベストテンにもノミネートしている
「浪人釣り師今昔」 太田 蘭三
角川文庫 1992.2.10
「自前の愛竿」と題するエッセイ集と、「鯉四郎事件帖」と題する二話の短編小説からなる。
カバーには「山と、釣りと、酒と、女性をこよなく愛する著者が、40年以上にも及ぶ釣り人生を通して出会い、
感じた様々な出来事を、巧みな文章でユーモラスに綴った朱玉のエッセイ集。」とある。
「自前の愛竿」は、釣り人なら誰しもが一度は遭遇したり、体験したりするであろう釣りまわりの通俗的な話題に終始するが、
自前の「愛竿」が伸びたり縮んだりと、釣り師=飲ん兵衛=好色という必殺パターンによって気楽に読める。
初出がサンケイスポーツ連載というから蓋し当然か?
「鯉四郎事件帖」浪人釣り師船田鯉四郎が行く先々で遭遇する事件と釣りとをからめて物語が展開する。
「寒バヤ釣りと消えた女」「通り魔娘殺し」の短篇二話は肩の凝らない読み物。
江戸時代の釣りの様子や関東近辺の釣り場なども描かれていてけっこう興味深いものがある。
浪人鯉四郎と著者をだぶらせて現代風にアレンジしたのが探偵釣部渓三郎だ。
彼を主人公にした山登りと渓流釣りをモチーフにして「殺意の三面峡谷」から始まる一連の山岳推理小説が生まれる。
ネタ切れの折りにでも順次紹介していくことにしましょう。
「太田 蘭三」についてはこちらへ
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