電車の吊革にぶらさがりながら停車駅が近づくたびに辺りを窺う。
窓の外を振り返るか、腰を浮かせる客がいればしめたもの、足をそっとズラセテ前に寄せる、それが座席確保の知恵。
中野、いやせめて新宿あたりで座れれば最高!
まず新聞を読み終えてから、残り時間で釣り本の数章に目を通せさえすればもはや悦楽の境地。
JR中央線の車内での椅子取りゲーム、目線がイヤシクなりました。
「羅臼 知床の人びと」 甲斐崎 圭 中公文庫 1600円
東京に転勤になってからはや10数年、田舎暮らしへの漠然とした憧れがいつも心の隅にある。
休日になると海だ山だ川だと出かけたくなるのはそんな表われかもしれない。
ただただ川辺や山野に身を置いているだけで精神というか気力がジワジワと充実してくるような気がする。
釣りだ、きのこだ、山菜だなどと言うのは、きっと照れ隠しにすぎないのかもしれない。
だが、田舎暮らしの厳しさは百も承知しているつもりではある。
この本にもそんな厳しさが満ち溢れている。
トド撃ち、スケトウダラ漁、ロシア国境での漁労、厳しい羅臼の自然の中で暮らす人々。
風呂桶担いで釣りに行く話が出てきてわずかにホっとするが、やはり田舎暮しは憧れの内に留めておこう。
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