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小平漁協のフォト日誌

おやじの渓のアマゴ<早川町保川>

 「あそこはぜ〜んぶワシの土地だで、工事のゲートがあるけど通っていいだよ」
 「ワシが一緒に乗っていって鍵開けてやるだで、誰にも文句言わさん!」」
保川の入口の入漁券販売所のオヤジが胸を張る。
 「まあ、すわんなさい、釣り場の説明をすっから、どっから来たの?」
 「東京?やっぱ天然のアマゴが釣りたいんやろ?」
オヤジさん、やおら手書きの地図を引っ張りだして入渓ルートを説明してくれる。
 「あんたがたはこれから源流に行くわけだで、一日がかりの釣りになるなあ」
 「食堂はないでえ、ワハハ、弁当は持っていったほうがいい」
入漁料1200円と駐車料金200円を支払って、ゲートから工事用道路に入る。先行者がいないという安心感かのためか、そま道から見下ろした渓相に惹かれて、教えられた地点に到着する前に渓に降りてしまった。
 南アルプスの笊ケ岳から落ちてくる流れは澄んでいるものの意外と暖かく、渓相からすればイワナの生息域なのにアマゴが釣れるというのも頷ける。すぐに竿を絞り込んだのは20センチオーバーのアマゴ、朱色の点が美しい。巨岩巨石を縫って流れる清流は至る所に絶好のポイントを作り出しているがその後1尾を大淵から抜き上げたものの後が続かない。何度も高巻きを繰り返し、渓とそま道を登りおりして約3時間も遡行したろうか、「先行者がいる?」最初は岩に残されたシミのよう な痕だったり、枯葉の乱れだった。それがだんだん濡れてきて、明確な足跡の形になった時、疑問ははっきりと落胆に変わってしまった。滝壷に向かって竿を振っている先行者の後姿を発見したのだ。途中で渓に降りて遡行している間に、オヤジに教えられた地点まで行って入渓したものらしい。しかし彼の魚篭に魚はなかった。彼も先行者に追い付いてしまい、引き返してきたところだという。下流で渓相に見惚れている間に、山道を使って追い越されてしまったようだ。
 あちこち寸断され谷底が眼下に迫るケモノ道のような狭い山道を引き返す。心地よい疲労感はあるが悔しさはない。とにかくアマゴの形だけは見たのだから。渓流の脇でコーヒーを沸かして簡単な昼食後、本流で竿を出す。
 取水されてズタズタになった本流に残された僅かな区間を丹念に釣り上がり、漸く22センチのアマゴを引っ張り出した。自己記録。 「帰りに寄ってっけよ〜」とオヤジは言ったが、いづれ近いうちに再挑戦するからと、そのまま帰途に着いた。
 それにしても、入漁券には店売り800円、現場売り1200円とあるが、あのオヤジさんの所は販売所ではなかったのか?ハテ?駐車料金200円ってのは、はて何処の駐車場だったのか?
 でもまあ親切にゲートを開けてくれたし、道も教えてくれたから良しとしとこ。

1994.6.18 山梨県早川町 早川水系保川

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