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小平漁協のフォト日誌

カモシカの眼前で<群馬県四万川新湯川>

 「しまった!寝すぎた!」時計の針は6時ちょっと前をさしている。久しぶりの釣友との渓流行、積もる話にすっかり飲み過ごしてしまった。車外に出て伸びをしながら流れを覗き込んだら、釣り人が二人、ちょうど真下を釣り上っていくところだった。こんな所で遅れをとってしまうなんて!「いつものパターンだなあ」と後から車を出た釣友も苦笑い。身支度もそこそこに小倉沢に入渓。
 2〜30メートルも遡行しただろうか?視線を感じてふと目を上げると、顔に立派な白髭をもった灰色の動物がじっと私を見つめている。山羊か?牛か?いやカモシカだ!距離にして5〜6メートル位だろうか、キョトンとした顔つきで私を眺めている。角はなく白髭が滑稽だ。
 「おいおい、びっくりさせるなよな、ワンとかキャンとか鳴けよう」
しばらくにらめっこしていたが、怯えた様子もなく時々草を食んでいる。気を取り直して釣り上るが、どうにも気になって彼女の方を振り返る。私のほうに向きを変えるだけでいっこうに立ち去る気配がない。
 ブレた竿先から道糸がツーっと走った。でかい!竿が上がらない。「尺だ、尺オーバーだ」心が躍る、奇声を発したかもしれない。ハリスが切れて砂利の上で跳ねる魚を必死で押さえつける。茶色く錆びた魚体に薄いピンクの線、なんと、虹鱒だ。心騒がせた自分がチョッピリ気恥ずかしくて、「わはは、こんなん釣っちゃった」
と彼女の方に掲げて見せる。騒ぎに驚いたのか呆れたのか、魅力的なお尻を見せてゆっくりと斜面を登り始めていた。

 その後の釣果といえば、放流サイズのチビ岩魚が3尾だけ。この日はもう一頭カモシカに出会うことができた。もう、それだけで満足。

 1994.4.8 群馬県吾妻川水系四万川新湯川

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