天気予報では雨、しかし今回を逃したら今年はもう遠征は望めそうもない。気乗り薄なかみさんを車に押し込んで自宅を出発したのは午後10時。案の定というか予報通りというか、長野県内に入った頃には雨模様も本格的になってきた。
大町の扇沢に到着したのは午前2時。雨にもかかわらず広い駐車場は七割方埋まっている。さすがに人気のアルペンルートだ。車中で仮眠。
<1日目> 翌朝もしっかりと雨空。登るか登るまいかとぐずぐず思案するうちにも重装備の登山客がトロリーバス乗り場を目指して歩いていく。やがて続々と観光バスが到着、身軽な観光客がステーションの中に飲み込まれていく。意を決して身支度を整えて出発。剣岳が本来の目標だった。しかし、剣岳が無理でも立山だけは登ってこよう!
扇沢からトロリーバス、ケーブルカー、ロープウエー、トロリーバスを乗り継いで約二時間で室堂ターミナル。
乗り換えに時間が掛かりすぎる。
室堂ターミナルは風雨に追われた観光客でごった返していた。
完全武装はしているものの出発がためらわれるような強い風雨だ。軽装の観光客があちこちでブルブルと震えていたり、敢然と出発して行く登山客がいたり、ステーションの中は大賑わい。居場所も混み合ってきたので、ともすれば萎えがちになる気分にムチを入れて雨の中に踏み込む。とりあえず一の越山荘まで登っておいて、明日の天気次第で雄山だけに登頂するか、それとも連峰を縦走するかを決めればいい。
越中富山の男子は立山に登ってはじめて一人前の大人と認められる。
中学生の時に立山登山があった。なぜか私は参加していない。
松本に生まれ小学校5年の夏に富山に移住してきた私も親も、立山登山の意味を理解していなかったからだろう。
富山平野から眺める限り立山より剣岳の峻険さに私は憧れていたぐらいだから。参加希望者は旅費を積み立てて、男子はほぼ全員が参加、女子は校庭を何周か走れる者のみが参加できた。数年前の同窓会で立山登山が話題になり、富山県人にとって立山がただの山でないことを改めて実感したのだ。その時から目標リストの中で立山登山の優先順位がやや上がった。
室堂から一の越山荘までほぼ1時間、まだ午後1時だが雨足も強いため、本日の宿は卒業アルバムに写っていたこの小屋に決める。雨のためかシーズン中にもかかわらず客は少なく個室状態で使えたのが嬉しい。
<2日目> 翌朝、風雨だけは止んだようだ。某旅行会の30人ほどの団体さんの後にくっついて一の越山荘を出発。雄山まで抜きつ抜かれつ、霧の中の道をゆっくりとしたペースで登る。団体さんがセオリー通りのこまめな休憩を取って進んでいる。新調した高度計付き時計で高度を確認するのが楽しい。昨日のテストでは結構正確だった。
金500円也を支払って雄山神社に登拝。 本来ならば山頂の社殿で行うお祓いを雨のため社務所の中で受け御神酒をいただく。 あ〜あ、これで私もようやく越中人?何故か故郷を確保した思いがした。
雄山から大汝山、富士の折立とピークを探しながらそこかしこにトウヤクリンドウが咲く尾根道を行く。 驚いたことに大汝山、富士の折立ともに標識が無い。右は残雪豊かな内蔵助カール、左は山崎カール。 もし晴れていれば壮大な展望が得られたかと思うと残念ではある。
真砂岳山頂で昼食。ここにも山頂標識は無く、いったん内蔵助山荘への分岐点まで行って戻ってから、 高度計で確認。それでも自信が持てずに後から来た件の団体さんのリーダーに訪ねるともっと先だという。しばらくすると他のグループがやってきて「ここが山頂ですか?」と問われる。「さあ〜?」と答える。するとすぐに別の団体さんがやってきたので「山頂はここですか?」と訪ねている。「もう少し先です」との答え。をいをい、この先は分岐まで降りですよ〜???真砂岳山頂は何処?
真砂岳山頂では風もやみ心なしか薄雲からの光が暖かい。気圧計を見れば天候も回復傾向なので別山を目指す。
雄山に別山、そして浄土山とで立山三山というのだそうな。こうなると浄土山をパスしたのが未練。
別山山頂でリュックを降ろして休んでいると、わあっ〜という歓声。
振り返ると雲が切れて雲間に剣岳が姿を現している。遙か下方には色とりどりのテントが張られた剣沢が見える。
剣岳の展望台といわれる北峰から暫し剣岳の眺望を楽しむ。吹き上げる霧と押し寄せる雲に何度も何度も姿を隠してくれる剣岳。いつか必ず登ろうねとはかみさんの言。
別山から剣御前小屋を経て雷鳥坂を降る。降るに従って天候は益々回復、立山連峰の全貌がくっきりと姿を現し始めた。今日一日で歩いてきた峰々を指さしながら確認する。雷鳥平に着く頃には青空が広がっていた。雷鳥こそ姿を現さなかったものの、チングルマ、コバイケイソウ、ハクサンイチゲ、ミヤマダイコンソウ、シナノキンバイ、タテヤマリンドウ、タカネツメクサ、イワツメクサ、チシマギキョウ、ヨツバシオガマ、コイワカガミなどの高山植物が眼を楽しませてくれた。
この日は雷鳥沢ヒュッテに投宿。二段ベッドの相部屋ながら窓からは立山連峰が一望。
仙台から来られたTさん夫妻と相部屋になった。立山は4度目というTさん夫妻の気さくな人柄にすっかりくつろいだおしゃべり好きなかみさんの口は、益々滑らかになるのであった。
<3日目>翌朝は地獄谷、みくりが池を見学後、Tさん夫妻に教えられた剣岳のベストビューポイントで剣岳にエールを送り、玉殿湧水の水を空容器すべてに詰め込んで帰途に着いた。振り返った空の青さが恨めしかった。