先月歩いた北岳から間ノ岳にかけての縦走路からずっと眺め続けていた優美な仙丈岳。次の山歩きは仙丈岳と、いつの間にか登山予定順位のトップに躍り出ていた山。
夜半の激しい雨に半ば諦めつつ夜明けを待った広河原の駐車場。午前5時半、いつのまにか周囲に車の数も増え、身支度を整えている登山者の姿もあちこちに。空はといえばいつのまにか雨もあがり時折雲間に薄い青空さえ覗いている。
登山口の北沢峠に向かうバスの始発は6時50分。大急ぎで簡単な食事を済ませ、無意味なアイドリングの排気ガスにむせびながらバス待ちの列に加わる。30分近くも排ガスを浴びせ続けられてから漸く搭乗。
登山客を満載した4台のマイクロバスが沢沿いの道、南アルプス林道を一路北沢峠へ。深い谷の底を流れる渓流が何故か懐かしい。今年は二度釣行しただけで、いまは山に夢中。
北沢峠では仙丈岳に向う登山者と甲斐駒ヶ岳に向かう登山者とが別れる。この日はお花の季節も終わったということなのか甲斐駒ヶ岳を目指す客がほとんどで仙丈岳に向かう登山者は少ない。
シラビソの原生林の中をひたすら登る。道の傍らに顔を覗かせているキノコ、タマゴタケ、チチタケ、マスタケ、ニガクリタケ、チシオタケ等々、秋の山ならではの楽しみ。
振り返れば甲斐駒ヶ岳が荒々しい相貌を見せて屹立している。五合目を過ぎた辺りからは木々の間から時々北岳がその勇姿を見せてくれる。
樹林帯を抜けハイマツの中を小仙丈岳へ、小仙丈岳からはアップダウンの痩せた尾根道を登る。高山植物は姿を消し、薄緑色のトウヤクリンドウが道しるべ。
仙丈岳の山頂に着く頃には甲斐駒ヶ岳も北岳も雲のなかに姿を消してしまった。眼下のカールの中央に新築なった仙丈小屋が霞に包まれている。展望が得られない山頂でお約束のコーヒーを沸かし、記念写真を撮影してから下山開始。
新築の仙丈小屋は太陽発電と風力発電を装備、木の香も新しいこぎれいな山荘だ。ガイドブックには避難小屋と記してあったので意に介さなかったが、ここを宿泊場所に選定しておけばより魅力的な山行が楽しめたはず。山頂まで一時間、御来光を仰ぐには最適。
仙丈小屋からは再び姿を現した甲斐駒ヶ岳を眺めながらこの日の宿泊場所の馬の背ヒュッテまで下る。夕食は定番のカレー、寝床は布団一枚に二人のシーズン並み。消灯8時。
翌朝は午前4時起床。空には星くずが瞬いている。山頂を目指すグループは前夜のうちに配られた弁当をもって未だ暗い山道に消えていく。あとは下るだけの私たちはヒュッテの窓からしばし大自然のショーを楽しむ。刻々と彩りを帰る朝焼けの空、黒く沈黙する甲斐駒ヶ岳、雲海の遙か彼方に浮かぶ八ヶ岳。
もし山頂に留まっていられたなら眺められたであろう御来光、富士山やアルプスの山々が目に浮かぶ、ああ。こんなに天候に恵まれようとは思いもしなかったから、後ろ髪を引かれる思いで帰途に着いた。