ヒゲ親爺に会いに裏山へ。山城で言えば堀底道のような曲がりくねった山道を登る。
かってヒゲ親爺に出会った曲がり角では谷間の急斜面に目を凝らす。
昨冬はかなりの積雪がありヒゲ親爺の安否が気遣われたが、生き延びて再び姿を現してくれるのやら。
谷間を覗き込み斜面を見上げ、ところどころに残る獣の足跡や獣臭に五感を研ぎ澄ます。落ち葉を踏みしめる音ももどかしい。
ふと視線を感じて見上げると、居た!木陰からこちらの様子を窺うように微動もせずに視線を投げてくる。
目線を外さず、驚かせないようにゆっくりとカメラを向ける。
障害となる立木や枝を避けるために身体の位置を移動させてシャッターを切るが、いつ逃げられるか気がきではない。
オートフォーカスが枝や枯葉にピントを合わせてしまうのがもどかしい。
暫くしてにらめっこに飽きたのか身を翻して起伏の向こうに消えた。
10分ほど登ったところで再び獣の気配。今度はその場に座り込んで余裕の睨めっこ。つい口笛を吹いて呼びかけてしまう。
奴さんこちらには興味が無いかのように時々下の方に首を向けたりしているが、こちらがカメラを向けるとすぐに反応して目を向けてくる。
こちらも関心が無いよとばかりに顔を背けたり、カメラを向けたりと、しばらく駆け引きを楽しんだ。
出会えた満足感を胸に再び山頂を目指して登ったところ、斜め前方の緩斜面に再びヒゲ親爺を発見。
全身を無防備に晒していて、心なしか幼い様子。
今度は思い切って近づけるだけ近づいて見ようと、シャッターを切りながらにじり寄って行った。
20mほど近づいたところで、軽い身のこなしでジャンプして走り去った。
もしかしたら驚かせてしまったのか、二度と姿を見せてくれないのではと、少しばかり後悔した。
しかし充分満足したので山頂まで歩くことは止めて引き返すことにした。
カモシカのテリトリーは広いので三度とも同じ個体かと考えて写真を確認したところ、いづれも左耳に欠けた部分があるので
同じ個体だと知る。
まるで先回りするかのように付き合ってくれていたのかもしれない。
今年の1月に人家付近まで降りてきていたヒゲ親爺であることも確認した。