渓流釣りをしていると、時として釣りをしているのか、
沢登りをしているのか解らぬようになることがある。巨岩を越え、滝を迂回し、
沢を登りつめる行為に、魚は釣れなくともすっかり満足してしまう。最近は、
渓から峰へ、そして山頂へと関心が移ろいつつあるのを自覚しつつも、釣り本の通勤娯楽だけは止められません。
タイミング良く「私の釣りは、山登りの変形」と言い切る著者のエッセイ集が発刊。
「みちのく源流行」 根深 誠
つり人ノベルズ 2000.4.10 950円
青森・秋田の両県にまたがる白神山地は世界最大規模のブナの原生林地帯として
世界自然遺産にも指定された日本最後の秘境。その白神山地を中心とした源流域でのイワナ釣り、
多少長い引用になるが紹介しよう。
「ゲレンデ釣りばっかりしていると、ヤマメの俊敏な感触やニジマスの猛烈なあがきなどは楽しめても、
山の幽すいが恋しくなり、後頭部がいらいらしてくる。こんなときにはイワナでなければならない。
それも、最低でも山で一泊して釣るのでなければ気がすまない。私にとって、
山で泊まらずしてイワナを釣るのはルール違反に等しい。
イワナは、深山の幽すいにふさわしい渓魚だ。
釣り人も、だから、山で泊まって、山に和してから釣らないと、イワナに申しわけがたたないのではないかと思う。
山では、夜もすてきだ、夜のそじまに山の精霊を感じる。風が吹くだけで心がなごむ。鮭が入っていたりすれば、
ときには人生にバラ色の幸せが見えたりすることがある。ともあれ、山での夜は、
神秘をたたえた闇の底で盛大に焚き火をしよう。」
自然の奥深くに分け入りながらも、そこに描かれているのは地元青森の個性豊かな釣友たちや、
山で出会った人々との人間味溢れる交遊や触れ合い。
白神山地の自然保護運動に大きな役割を果たした著者の強靱な精神の源を感じる好著。
釣りの文庫本としては以下の2冊がある。
「白神山地をゆく-ブナ原生林の四季-」 中公文庫 1998.5.18 980円
「ヒ マ ラ ヤ を 釣 る」 中公文庫 1999.7.18 860円
NEXT