渓流解禁直前の書店の釣り本コーナーは釣り具に関する本のオンパレード。
フライタイイングはもちろん竿作りからルアー、浮木作りまで。釣り人の禁断症状を見透かしたようなグッドタイミング。
ようやく書店にも釣り人の心が解る担当者が出現したのか?それはそれで喜ばしいこと。
その書架の中にB◎◎K Fishing No34で紹介した「テンカラ狂想曲」(人間社)
の著者木村一成氏の本を発見!氏からは前回の紹介の後でメールを戴いたこともあり、即購入。
「 名人達の釣り道具」 木村一成
人間社 1998年 7月28日
「名人と呼ばれる人達はなぜ釣れるのだろうか?」
著者はこの疑問に始まって、
「名人の話が聞きたい」と各地の名人に取材を試みる。
しかし、「長年の経験から自ら見つけてきた奥義の数々を、私ごとき素人釣り師に話してくれるものだろうか」と、
「釣り道具という目に見える形あるものを方便に」して名人達の話を聞くことにする。
「名人が釣り道具を語ることは、その人の釣りを語ることである。
名人が釣りを語ることは、その人の生き方を語ることである。
それぞれ釣法、釣魚へのこだわりは違っても、名人達は、魚から学べ、自然から学べ、
そして人から学べと説いた。」
まずは、岐阜県の郡上八幡を流れる吉田川を中心に活躍している「釣聖」とまで呼ばれる「恩田俊雄氏」とその子息の「恩田忠広氏」、そして「郡上恩田流」の理論家である弟子の「荻野成基氏」、同じく「道具作りの名人」として「伊藤弘道氏」を紹介する。
郡上恩田流の釣りは本流での抜き釣りが基本。これを可能にするのが、長さ三間を基本とする胴調子の郡上竿、糸は順落としに繋いでテーパー状にして操作性と伸縮性を高め、郡上タモは腰から抜かずに魚をキャッチするために柄と枠に角度がついている。また、魚の鮮度と形を保つ郡上魚篭、新案「イクラの餌箱」、等々「恩田流では釣る魚側から発想することで、ハリ、糸、オモリ、目印、竿を選定していく」のだという。
また、恩田流は実はサツキマスを釣ることが目標で、最初の三年ほどは渓での釣りによって波の読み方を学び、本流での複雑な波が読めるようにする。そうやって本流の天然アマゴが釣れるようになると、その釣りを通して第六感を養い、サツキマスのアタリを取るように訓練するのだ、と言う。
釣りの奥義ここに極まれり!の感あり。
道具にこだわる恩田流に対して「道具にこだわらない釣り名人」として岐阜県下呂町の「中川栄太郎氏」を紹介している。
「ワシの釣り道具なんか、人様に見せるような価値のものはないでね。
それにワシと同じ道具にしたところで、だれでも釣れるようになるわけやないから」と、
市販の渓流竿を自分流に改造して使いこなす飛騨の名人。豪放磊落な釣り談義に好感。
他に、テンカラの達人「遠藤正仁氏」、鮎釣り漫画家「黒田とみじ氏」の道具へのこだわり、釣りへのこだわりを紹介している。
そして最後に「名人への道のり」の中で「名人達はだれもが謙虚であった。
どの名人も、自分を名人とは思っていなかった。」とし、その名人達から教えられたのは
「釣具を釣り道具に育て上げるのは釣り師なのだ」と締めくくる。
禁断症状に起因する単なる「釣具フェチ」に陥らないための必読書(^−^)
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