「春が近づくと、私は2間半の渓流竿を取りだし、仕掛けをつくる。春を待つ私の心には、一尾の”天の魚”が泳いでいる」
「天の魚」というのはアメノウオ、すなわち山女魚のこと。多摩川、相模川、酒匂川、丹沢、道志川、小金沢、
‥‥魚が釣れるなどというのはもはや昔語りになってしまった感のある都会周辺の渓や川。
これらの流れに生き生きと天然の魚が群れていた、もう30年以上も昔の釣り。破壊される前の自然と魚、
現在の釣り人にとっては憧憬の世界がここにある。
著者は50歳にして体力の限界を知り渓流から足を洗い、
その後は海釣りに関心が移って行ったという。それをそのままに前半は「渓流/川釣りの章」で、
後半は「磯浜/船釣りの章」として、クロダイやカサゴなど様々な海釣りを紹介している。海釣りから渓流へ、
川釣りへと移ろいつつある私とは逆コースであることも興味あるところ。ん?私の場合はただ浮気なだけだってか?
榛葉英治(しんば・えいじ)1912年静岡県生まれ。早稲田大学卒業。
1958年「赤い雪」で第39回直木賞受賞。
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