安曇野風来亭 道楽日誌 操業日誌 戦国山城散歩 キノコ図鑑 小平漁協書籍部 自己紹介

小平漁協の通勤娯楽

2001.4.8

先週末のことです。秩父あたりの渓流で竿開きをしようと勇んで自宅を出発したもの の、途中の成木川で見てはいけないものを見てしまいました。大勢の釣り人が狭い流れ の両岸に佇んで竿も出さずに何かを待っている様子なのです。  すぐにその疑問は解けました。荷台に水槽を載せた軽トラが魚をデリバリーしながら 渓流沿いの道をゆっくりと移動しているのです。釣り人がまるで給食を待っている餓え た人々に見えてきてすっかり釣欲が失せてしまいました。


まあ、こんな些細なことでふてくされて竿も出さずに帰ってくる私には釣り師とし ての気力というか意欲が欠けているのでしょうね。そんな気力減退気味の釣り師にも、 釣欲ギンギンの釣り師にもお薦めの一冊。

「パブロフの鱒」ポール・クイネット 角川書店 1800円 2001.2.28

著者はワシントン医科大学で教鞭をとる臨床心理学者。とすればタイトルにある「パブロフ」 というのは例の”条件反射”の研究で知られる博士のことと、 反射的に涎を垂らしてしまった方もいるかも。さらには” パブロフの犬”ならぬ”鱒”ということで、 フライやルアーや餌に鱒を反射的に飛びつかせる方法を教示してくれるノウハウ本では と早合点された向きもあるかも。  だが、さにあらず。パブロフ博士の期待通りにおとなしく実験台に登ってベルの音で 涎を流してくれた犬ばかりではなく、実験が始まるたびに自由を求めて暴れ反抗し続け た犬がいたのだ。結局パブロフはその気むずかしい犬に条件づけることに失敗し、 その犬の反応を「フリーダム・リフレックス」と呼ぶことにした。 この気むずかしい犬の野性的な行動こそフッキングした魚が生存を賭けて反射的に行 う自由への闘争と同質のものだと釣り師としての著者はいう。 「もしかすると魚の野生が私たちの野生を目覚めさせるのではないか」 「魚をランディングすると、釣り上げた人はなぜか力と生命感にあふれ、 野生に戻ったような気分になる。ほんの数秒ではあっても、 自意識の重荷をすっかりおろし、リラックスして、 より深いところで自然とひとつになれたことを感じる。」 人間にも野生は必要、釣りはその野生にアクセスする手段なのだと著者は説く。 タイトルとなった本編の他、人間にとって釣りとは何かを解き明かしてくれる好エッセイ集。 次の文を紹介しておこう


 「釣りとは歳月に耐え抜いてきた希望だ。人間の精神にとって希望こそがすべて   だ。希望がなければ、憧れも、よりよき明日への夢も、次のキャストででかい   魚がかかるはずだという信念もありはしない。・・・・・・・・・・
  希望のない状態は、悲観的で暗い。かたや希望に満ちた人には力と自信とがあ   る。よいアングラーとは、ポジティブ・シンキングの力を実践する人だ。彼ら   はハードに釣りをする。すべてのキャストに当たりが来るかのように、釣りを   する。当たりがなlくても、何時間も何時間もリールを巻き続ける。希望がな   ければ、そんなことなんかやめてしまうだろう。------たぶん、永遠に。」

 釣りに、人生に、気力減退を感じ始めた人、必読の書!と、言っておこう(^−^)