東京の水道水のあまりの臭さに飲むことを止めてからもう数年、あちこちの銘水を求めて、水汲みに行ったり、買い求めたり、けっこう苦労したり、
楽しんだりもしているのだが、ここ数か月は近所の人に紹介してもらった桂川の湧水を愛飲している。過日、湧水の水源を見せてもらった折、
湧水が注ぎ込む桂川の流れにライズを認め、次回はゼッタイ竿を持参するぞ!と密かに決意しての女房同伴の水汲みドライブ。
日曜日にもかかわらず、中央高速を使えば自宅から1時間半足らず。これは癖になりそうな超アナ場か?などと期待しつつ竿を出す。
何投目かにフッキング、水面をジャンプして激しく抵抗する魚を寄せてくる、ふ〜と軽くなる突っ込みも躱して岸辺に寄せる。
「わあっ!かわいそう、かわいそうだよう」と女房の声。鮮やかな緑色の背をした鱒が澱みに消えた。30センチか?
約200リットルの湧水とクレソン少々を車に積み込んで帰途に着く。未練たらしく遥か下の谷底を覗き込みながら降ると支流との合流地点が開け、
立ち込んで竿を振る釣り人の姿が眼に入る。河岸に車を止め、助手席で居眠りを決め込んでいる妻を車に残し竿を振る。
何投目かに精悍な顔つきのオイカワ、「フン!」と言わんばかりの眼、放流。これにめげずに投げ続けていると、
ブ〜ンと竿ごと持っていくアタリ。このパックロッドでは経験したこともない感触だ。ドラグがジリリリと鳴るが、アワセてもフッキングしない。
4〜5回も同じことが続いた後、ガッチリとフッキング。6尺足らずの竿は今にも折れそうに曲がり、1.5号の道糸がジリジリと出ていく。
「お〜い!を〜い!」訳もわからず妻の救けを求める。
「わあっ!かわいそう、かわいそうだよう、離してやりなよう〜」
ドラグを締めたり緩めたり、糸が出尽くして空回りしたり、あれやこれやで、ようやく姿を現した魚影を見れば、紛れもなく鯉。
しかも一回り小さい鯉がまとわりついて離れない。「わあっ!かわいそう、かわいそうだよう」女房が叫ぶ。
玉網を持って駆け付けてくれた近所の人が水飛沫に濡れながら取り込んでくれた。「わあッ!でかいなあ、初めて見た」
「記録モノだあ」周囲がどよめく。淡い黄色か、渋い金色か、観念したかのように地面に横たわる鯉、
79センチ、ブレットンをしっかり口にくわえているものの王者の風格。両腕に抱えてリリース、慌てる様子もなく悠々と深みに消えていった。
奮闘格闘20分、腕が痛い!リールは故障してしまったようだ。
釣りに女房を同伴するのはやめよう、と、密かに決意。