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小平漁協のフォト日誌

渓流の骸<足尾町安蘇沢>

 明後日には検査結果が出る。
 時々脇腹に疼きを感じながら関越道を北上、伊勢崎で釣友を拾って一路足尾へ。 釣友も身体に不安を抱えながら中間管理職の激務に耐えている。ともに大学を卒業してはや20年、 心身ともにガタがくるのは蓋し当然か。昨年には学生時代の仲間が脳卒中で急逝している。 長手沢の出会い付近に車を止めて、なにはともあれ一年ぶりの乾杯。つもる話についついボトルが空いてしまう。 

ヤマメ翌朝、二日酔い気味の身体をだまし騙し渓流に降り立つ。 しばらく遡行を続けるうち、次第に酒も抜け気分もシャキッとしてくる。だが澄みきった流れから魚は飛び出してこない。 しだいに雑念に捕われ、同じ想念が頭のなかをグルグル廻りはじめる。利根倉沢との出会いで釣友と別れ、利根倉沢に入る。 落ち込みが雛段状に続く私好みの渓相だが一向にアタリが出ない。周囲の木々はまだ芽吹いておらず、周囲の林のは明るく見渡せる。 時折、「ヒュウーッ、ヒュウーッ」と鳴き声が谷間に響きわたる。誰かに見られているような気がして、フト向いの山の上を眺めると、 シカが首だけを出してこちらの様子を窺っている。しばしのにらめっこの後、シカは首を傾げて向う側に消えた。 大堰堤まで遡上して、この沢を諦める。 

 車に戻ってキャンプ道具を引っ張りだし、 コーヒーを湧かして寛いでいると、釣友がずぶ濡れになって戻って来た。魚篭には20センチの錆びた岩魚が1尾。 岩魚を釣り上げて「さあ、これからだ」という時に水に落ちてしまったらしい。この時期、沢の水はまだまだ冷たい。 衣類を周囲の木立に掛け、本人は素裸にタオルを巻いて昼寝を決め込む。
 2時間ほどの至福の時を過ごしてから、 二人で安蘇沢に入る。初めてのテンカラで24センチのヤマメを釣り上げた沢だ。だがしかし、ここも渓相はいいのに無愛想な沢だ。 ほとんど諦めかけたときに、小さなアタリ。アワセをくれたが空振り、餌が喰い千切られている。「いたっ!」再度投入、 ようやくきた12センチのヤマメ、美しい魚体を暫し眺めてリリース。この沢ではさらに14センチのチビヤマメを追加。 釣友にもテンカラで18センチが。安蘇沢と久蔵沢との出会い付近の堰堤下プールでルアーを試みる。 ブレットンのゴールドに18センチのヤマメが喘ぎながら掛かってきた。これで満足!、十分堪能した。

 車への戻り際、ふと足元を見ると毛がふさふさの動物が横たわっている。イヌかタヌキか?恐る恐るみると、それはカモシカのこどもだった。 この哀れなこどもはおそらく冬の間に餓死するかしたのだろう。辺りには他に鹿と思われる白骨もあったりして、急に脇腹が疼きだした。 合掌 

 1993.4.3 栃木県足尾町久蔵沢〜利根倉沢・安蘇沢
  
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