安曇野に移り住んできたからには、自宅から見える山々は全て踏破したいもの・・・・
安曇野の最高峰が常念岳ではなくて大天井岳(おてんしょうだけ)2922mだということをつい最近知った。
これはもう大天井岳に登る以外の選択肢はなく、燕岳から北アルプス表銀座コースを経由して大天井岳に登ることにした。
日本三大急登といわれる合戦尾根を登る。
安曇野を支配していた八面大王が坂上田村麻呂に追い詰められて敗れたという伝説が残る合戦場だ。
こんな山奥にそんな伝説が残る不思議さに首を捻りながら合戦小屋にたどりつく。
小屋名物のスイカは下山時の楽しみということにしてさらに登り続ける。
燕山荘に到着して暫くすると、霧に隠れていた燕岳がその怪異な姿を現してくれた。
花崗岩が風化してできた白砂を踏みながら山頂を目指す。奇岩怪石とハイマツを縫って進む。
かって登った鳳凰三山に雰囲気があまりにも似ているので、
岩陰に石仏やタカネビランジの花がありはしないかとついつい探し求めてしまった。
山荘に戻ったのはまだ1時頃だったが、翌日の表銀座縦走を目いっぱい堪能すべくゆとりをもってチェックイン。
周囲の山々を眺め山座同定を楽しみながらのんびりと過ごす。
山荘では混雑を覚悟していたものの一人一枚の布団を確保でき、 食事も評判通りの味、そして赤沼さんのトークとホルンの演奏を楽しめた。
でも、その後が良くなかった。
隣の客のイビキの物凄さに一睡もできずに朝を迎えることになってしまった。
大天荘まで行くべきだった・・・・
寝不足気味ではあるけど雲海のかなたにご来光を仰ぎ、
朝焼けの槍ヶ岳を眺めると一応気分も軽やかになってきた。
表銀座コースは左手にコマクサやイワギキョウなどの高山植物を愛で、
谷の向こう側に裏銀座の峰々を眺めながらの快適な空中散歩。
昨日はやや盛期を過ぎて萎れがちだったコマクサも、 朝陽を浴びて透き通り精気を取り戻しているかのように見える。
振り返ると立山連峰が意外と近く大きく見えるのに驚く。
中学生時代に教室の窓から眺めた立山連峰の夕映えの美しさは今も脳裏に残っている。
表銀座コースは大天井岳の手前で分岐する。右に進めば槍ヶ岳、左に進むと常念岳に至る。
槍ヶ岳の威容を見せつけ続けられては、
衝動的に右への道を選択してしまう登山者も多いことだろう。
だが、車を中房温泉に置いてきた弱みで、今回は大天荘泊まりでUターンしなければならない。
大天井岳の山頂で山ガール姉妹に出会った。
聞けば槍ヶ岳に登って来て常念岳に向かう途中とかで、先週は三俣蓮華・鷲羽岳に登ってきたという。
凄い山ガールがいたものだ。
最近流行りのカラフルなファッションではなく控え目なスタイルに好感が持てた。
山ガール姉妹は足取りも軽やかに山を下りながら振り返って手を振ってくれた。
当初は燕〜大天井をピストンして燕山荘に2泊する予定だった。
ところが隣客のイビキによる睡眠不足がこたえて戻ることを断念、大天荘に泊まることにした。
期せずして安曇野の最高所で寝ることになってしまった。
部屋は定員8名のところ、京都から来たという夫妻とで4名というこの時期考えられない贅沢さ。
食事時の行列も無くゆったりと寛ぐことができて、結果オーライ。
夕食後は心行くまで北アルプスの絶景を堪能。
高瀬川の深い谷間に雲が滝のように流れ込んでいる。いずれ谷間が雲海で埋め尽くされるだろう。
気がつけば今日歩いてきたアルプス銀座が折れ曲がった背骨のような山脈となって雲海に浮かんでいた。
夕暮れの槍ヶ岳と穂高連峰。
いずれの山も下山時に相当の疲労困憊を覚えたはずなのだが、
今は登頂できた爽やかな達成感だけが記憶に残っているから不思議だ。
いつまでも眺めていたかった。
山の朝は早い。テント泊の登山者が手早くテントを畳んで次々と出発していく。
すぐ目の前に見える常念岳に未練は残ったが、このルートからのアプローチは別の機会に譲ることにして、
もと来た道を引き返すことに。
幾つもの団体登山の列とすれ違いながら、銀座とはよく名付けたものだと昨夜の燕山荘の混雑ぶりを想像した。
寝床スペースといい天気といい、我らのなんと運の強さよ。
槍ヶ岳に見送られての帰り道、
振り返り振り返り、槍の穂先がまだ見えることを確かめながら下る。
帰途には燕山荘でお約束のケーキとコーヒー、合戦小屋ではスイカに舌鼓を打ち、
中房温泉の露天風呂に浸かって表銀座コースならではの山旅を堪能して締めくくった。