以前に紹介した酒井茂之著「渓流釣りの名人たち」(講談社)の中で「現代の名人」四人のうちの一人、「思索する釣り人」として紹介されている「熊谷栄三郎」氏のエッセイ。
「山釣りのロンド」熊谷栄三郎
山と渓谷社 1230円 1996.2.20 第5刷
長野県の木曽地方に伝わってきたテンカラ釣りを広く世に知らしめたのはあの山本素石翁だが、
その曾孫弟子と自称する著者は「餌釣り」と「テンカラ釣り」の違いに
ついて次のように書いている。
「餌釣りは暗い根の世界である水底に糸を垂らして、
じんわりと、執拗に、そして間接的に魚と対する、いわば沈糸黙考の釣りだ。
対するにテンカラは、魚を根の国
から水面の白日の世界に誘い出して、
直接互いの姿を見せ合いながら勝負する明朗 闊達、即戦即決の釣りである。
どうみたって、餌釣りは「暗い」釣りであり、テンカラは「明るい」釣りであるということになる。」
餌釣りからテンカラへ、テンカラからフライへ、あるいはルアーへ、魚種や釣法、
釣り場が変わるだけで、釣り人の心持ちは大きく変わる。
いや、逆に心持ちが変化す
るから釣りを変えることになるのか?ただ単純に浮気なだけの私には解らない(^-^)
ただ、釣りに関するエッセイやら小説やらを釣りの種類にこだわらずランダムに読み
漁っっているが、
エッセイでは圧倒的に渓流釣りが多いようで、それも餌釣りではなくて毛鉤釣りのテンカラに軍配があがるようだ。
「思索する」釣りということか。「ひょっとしたら山釣り師は、現実の谷を遡ることと、
自分の存在の根源を遡ってみることとを、無意識に重ね合わせて感得しているのではないだろうか。
この釣りにいったん囚われた人が、二度と抜け出せなくなるのは、
その自己探求の強烈な魅力のせいのように思えてならないのである。」
テンカラ釣りの魅力を解き明かしてくれる好著。
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