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小平漁協の通勤娯楽

2000.3.5

前々回はへら鮒釣りの「魚仙行状記」を紹介しましたが、その中で「幸か不幸かWEB上にへら師は少ないようだ」 などと言い放ってしまいました。 どなたからもクレームはなかったものの気になったので検索してみたところ、けっこう「へら師」のホームページも公開されていて、 私の勝手な思い込みであることが判明しました。(^−^;
 ご参考までに HERA FISHING をご覧になって見てください。 で、今週もへらフィッシング。

『春鮒日記』 英美子 釣り人ノベルズ 980円 1994.4.20

 私の書棚にある数少ない鮒釣りの本。
 終戦前後に牛久沼のほとりに疎開した母子の、釣りを糧とした日々の生活を情感豊かに描いている。 女流詩人である母のエッセイと、将来はギタリストとして世界の舞台で活躍することになる息子のへら鮒釣り日記 とで織り成される詩情溢れる佳編。

 疎開した親子は「たけのこ生活の打開策として」 母はぬかえび獲り、息子は鮒や鯉を釣って生計を立てようとする。釣り好きな息子にとっては 「最初のうちは、何か釣りの神聖を侵されるような屈辱を覚え」たが、いつしかそんな生活になじんでいった。 やがて終戦を迎えるが、息子はますます釣りに熱中し、その意欲的な探求心もあって、 真鮒とへら鮒とが交配して中間型が生まれたとする「半べら論」を展開、若年ながらへら鮒釣りの歴史にも足跡を残す。 しかし、母親はそんな息子の将来を憂う。「ことによると、この子は一生をこの土地で、一介の釣り師として終わる気ではあるまいか」と、 そして「春鮒」と題する詩に思いを託す。あえて全文を引用してみましょう。

        春  鮒  (若き釣り人の母のうたえる)

    かなしきものは 若き釣り人の母なり
    雨にたたかれ 風に裂け
   髪 ぼうぼうと 爪のびて
    ただ一筋に 鮒を追う
    釣り狂じたる たたずまい
    高き望みも 捨てはてし
    君かとおもう さびしさに
    牛久沼辺に 来てみれば
   浮き世に 遠き 水の上
    君は 静かに 糸垂るる
    その美しき 竿さばき

   ああ 春鮒は そよそよと
   尾振り ひれ振り 水光る
   利根を はるばる のぼりくる
   小波立てて のぼりくる

 そして言う、「鮒よ---おまえは、私の唯一人の子を滅茶滅茶にしてしまう!いとしい、憎い、水の中の銀色の女王よ。」

 へら鮒釣り師ならずとも、是非一読をお奨めしたい作品。

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