安曇野風来亭 道楽日誌 操業日誌 戦国山城散歩 キノコ図鑑 小平漁協書籍部 自己紹介

小平漁協の通勤娯楽

1999.5.31

 久し振りに7時前に退社できたのに、架線にビニールが付着したとかでJR中央線、総武線は全面ストップ、 結局自宅に帰り付いたのは10時すぎ。木の芽どきの人身事故も一段落し、ここ暫く電車の遅延もなかったのに、 ちょいと風が吹いただけでこの有り様。ビニールシートが5枚、風に舞った結果らしい。 それにしてもJRの対応の不手際がいまいましくはある。
 でもまあ、そんなこんなで通勤地獄。 せめて心は極楽を彷徨いたいとての通勤娯楽です。

釣竿

「マクリーンの川」 ノーマン・マクリーン  訳/渡辺利雄

集英社文庫  600円 1999.5.25

 フライフィツシャーマンならすでに御存知、93年公開の映画「リバー・ランズ・スルー・イット」の原作。 この映画でフライフィッシングの世界に飛び込んだ釣り人も多いはず。ようやく文庫落ちして再登場。 私の釣り文庫ベストテンに無条件にノミネートすべき名作だ。

     「わたしたちの家族では、宗教とフライフィッシングのあいだに、 はっきりとした境界線はなかった」との述懐で始まる著者の自伝的物語り。
 アメリカのモンタナ州北西部を流れるビッグ・ブラッグフット川の大自然を背景に、 マクリーン家の家族とその周辺の人々との物語りが展開される。 兄弟で競ってフライロッドを振る描写などは映画の美しいシーンを思い起こさせる。 穏やかな光に満ちた空間を美しいループを描いてラインが舞う。それだけでもう、 うっとりとしてしまう世界だ。

 「フィッシングというのは、 ほかのあらゆる世界から完全に切り離されたところに創造されるまったく別の世界であり、 その世界の中には、またそれ自体特別の世界が一つ隠されている--それは魚一匹、 フィッシャーマン一人にとってすら十分でない狭い、小さな世界と水域で、すべてを忘れ、 大ものの魚を狙ったフィッシングに没頭することなのだ。」

  牧師でありフライフィッシングの名手でもある父親の薫陶よろしく釣技に優れた弟のポール。 しかし、兄以上の才能に恵まれながら、それを持て余したのか、その在るべき場所を得られない故なのか、 少年時代からギャンブルに熱中し、成人してからは酒色に溺れトラブルが絶えない。兄弟で釣りをしながら、 そんな弟になんとか手を差し伸べようときっかけを探す兄。そして、 手助けを求めながらも意地とプライドからかそれを言い出せない弟。 フライフィッシングをやりながらのちょっとした兄弟のやりとりの中に、 そうした 兄弟の微妙な心理が象徴的に描写されている。
 親子3人での釣りが最後になった。 弟が兄の釣れ盛っているポイントに石を投げ込んで素直な嫉妬心を表現し、 また父が弟のポイントに石を投げ入れて自らの無びょう性を否定して率直な情愛を示すシーンが印象的。
 弟のポールは自分に向けられている両親や兄の心配を感じながらも、 最後にはそうしたトラブルによって身を滅ぼし悲劇的な死を迎えることになる。 もし、仮に、フライフィッシングの技量が父親や長男を凌ぐものでなかったならば?いや、これは愚問だ。

 そして40年を経て、兄は同じ流れに向かい、独りフライフィッシングを続けている。
 「峡谷の北極圏のような薄明かりの中で、宇宙に存在するあらゆるものが、森羅万象が、しだいに色を失って、 ただわたしの魂と、わたしの記憶と、ビッグ・ブラックフット川の水音と、四つ数を数えるあのキャスティングのリズムと、 水面に浮上する魚に対する期待感、ただそれだけをもった、ある一つの存在に変わってゆく。 そして最後に、すべての存在が溶解、融合して、たった一つの究極の存在となり、 一筋の川がそのたった一つの存在を貫いて流れているのを意識する。」  A RIVER RUNS THROUGH IT

 読んでから見るか、見てから読むか?な〜んて、古いキャッチがあったけど、 どちらからでも御随意に!おいをい、リリースしてないぞ、なんて野暮なこと言いっこなし!文句なしのお勧めです。

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