先週末の渓流釣りのついでにちょいと摘んできた天然山葵(わさび)が飴色に美味しく漬かりました
。栽培ものと異なって根の部分は小指ほどにしか育たず、専ら茎と葉の部分を食べるのですが、
これが何とも言えない辛味が嬉しい季節の美味。私の春の釣行は山葵採りとともに始まります。
もちろん秋にはキノコの楽しみがあります。
クロダイ狙いの沖磯釣りをやっていた頃は、
ワカメの芽株やニシがついでの土産でした。海から渓流に志向が移っても私の性分はほとんど変わっていないようです。
そんなことばかりに夢中になっているので、当然のことながら釣りの腕前はいっこうに上達しません。
「名人」と呼ばれる釣師たちは「お土産」に目が向いてしまうことはないのでしょうか?
「渓流でフライロッドを振る、山上湖でルアーをキャストする、清流でアユを追う‥‥。
渓流釣りは、人生を豊かにしてくれる。」「釣りの感激と興奮!」
そんな帯封のコピーとフライフィッシングのイラストに魅かれて本書を手にした釣り人もけっこう多いかもしれない。
私など釣りに関するありふれたキーワードとビジュアルに対してはほとんど無抵抗で反応してしまう。
釣り人が相手ならばあれこれとコピーをヒネクリまわす必要もない、赤児の
手をひねるようなもの。
おっと、そんな安易さが通用するなら広告屋なんぞ無用だね(^-^;
「渓流釣りの名人たち」 酒井茂之 講談社 1500円 1999.3.15 初版
著者は渓流釣りの名人として9人の釣師を紹介している。
第1章は「先人たちの釣り」として、哲学する釣り人「幸田露伴」、釣りの旅人「佐藤垢石」、
歩く釣り人「森下雨村」、中年からの釣り「瀧井考作」そして、釣りの放浪者「山本素石」の五人の釣り人を紹介。
いずれも文学者、文筆家として知られる釣師たちだ。その饒舌なるをもって名人たることを認められた先人達。
釣りの趣きも悲哀も味わいも、幾多の釣行から紬出した珠玉の名言や文章の行間に薫煙の如くに焚き込めて、
残り香を楽しめとばかりに逝った先人達。それぞれの著書は追々紹介していきましょう。
第2章は「現代の名人たち」として、現役で活躍中の名人達を紹介。
思索する釣り美と「熊谷栄三郎」、渓を語る翁「瀬畑雄三」、自然を見つめる釣り人「村田久」、
渓流釣りの業師「天野勝利」の4人だ。
この4人に共通するのは「テンカラ釣り」
言わば和式フライフィッシング。かの山本素石翁もそうであったように、
それぞれの土地に昔からあった毛鉤釣りであるテンカラ釣りに独自の発想で工夫を施して釣技を磨き上げている。
釣技の練磨研鑽を通じて「老功の域」に達した名人として紹介されている。
名人それぞれの釣り人生が簡明にダイジェストされていて、「釣り哲学」の?絶好の入門書になっている。
ん?これで9人、
あと一人不足している。著者はきっと「10人目の名人」を目指しているのだろう。
著者の酒井茂之氏の活躍に期待したい。
因に、「テンカラ」の語源について興味深い説が掲載されている本を紹介しておきましょう。
著者は草創期からのフィッシング・ネットワークの仲間です。ぜひご一読を。
「竿をかついで日本を歩く」 かくまつとむ 小学館 1470円 1998.5.1
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