安曇野風来亭 道楽日誌 操業日誌 戦国山城散歩 キノコ図鑑 小平漁協書籍部 自己紹介

小平漁協の通勤娯楽

1999.4.5

私の「釣り文庫本」ベスト10の紹介もようやく10冊目になりました。 一人一冊ということで「えい!やっ!」と選んだものですから、 まだまだ他にもお薦めしたい著者や文庫本はたくさんあります。 追々とご紹介していきましょう。

釣竿

残念ながら私の手元にムツゴロウ師の釣り本はこの本しかない。 他にもあるのか近日中にリサーチしてみます。

畑 正憲 「ムツゴロウの大漁旗」  文春文庫

 1979.5.25

かのムツゴロウ師が若かりし頃はかなりの釣り狂いだったことは知る人ぞ知る事実。 師の釣り歴を紹介する一文を「外川の鯛」から多少長文ですが引用して見ましょう。

 「もの心ついた頃から、川や池の淡水の釣りをしながら育った。満州では開拓団の脇を流れる川の豊富な魚群を追い、 中学から高校にかけては、水の綺麗な筑後川の上流で魚を釣った。が、昭和29年、上京してから事情が一変した。 目の前には東京湾があり、未知の海釣りにたちまちとりこにされてしまったのである。選んだのが動物学科で、 絶えず海に引っ張りだされ、海の動物を調べる生活を強いられたのが、ますます私を海の釣りへ追い込んでいった。
  私は海の動物に親しむためだと自分にいい聞かせながら、そこら中を釣りまわった。  江戸前のハゼに始まり、セイゴ、フッコ、カワハギ。木更津から竹岡、上宮田から三崎、油壷、沼津、 そして伊豆。場所と共に魚種も変わり、イナダやワラサ、クロダイやイシダイ、湾口の大鯛にもいどんだ。 この頃私は東京周辺の釣り宿の集落にはほとんど顔を出した。
 ……だが、激しく魅せられる反面、 いささか失望することも多かった。釣り宿での釣りには、若さを満足させる荒っぽさがなかった。」
 「どうせ釣りをやるのなら、海と共に生きる漁師の釣りをやりたかったのだ。釣り宿の釣りには、哲学めいた哀愁が漂い、 釣り本来の何かが欠けている気がしてならなかった。」


 そんな時に出会ったのが外川の漁師。 ここで始めて自分の求めていた釣りにぶつかったという。そして、昨今の釣りの有り様を辛口の文明批評でバッサリと斬る。 曰く「私は地球と人間の精神の衰弱を思う。」ここにもやっぱりいた頑固親爺、かの「高橋治」と相通じるものがある。
 「外川の鯛」の他、紀州は雑賀崎の一本釣りの漁師とのふれあいを描いた「紀州のジプシー」は「高橋治」の「秘伝」や 「さすらい波太郎」の世界を彷彿とさせてくれてお薦め。他に「桜鯛」「日田の鯉」「涸沼川のハゼ」など、 その土地土地で出会った漁師や釣りを描いたルポ風エッセイ集。
 「魚はなぜ餌に食いつくか?」 の疑問を解こうと思い立ち、海に潜って観察した「海底からの報告」も興味深い。

 私の手元にあるのはこの「ムツゴロウの大漁旗」だけ。他にも出版されているのなら是非読んでもたいものです。 御存じだったら教えてください。


改めて「釣りの文庫本・私のベスト10」をご紹介しておきましょう。 中にはもう販売されておらず入手困難な文庫本もありますが、いずれ劣らぬ作品ですから、 そのうちに版を重ねることと思います。    
山 本 素 石 「つ り か げ」PHP文庫
田 中 光 二 「わだつみの魚の詩」ケイブンシャ文庫
湯 川   豊「イ ワ ナ の 夏」 ちくま文庫
高 橋   治「 秘   伝 」講談社文庫
開 高   健「私の 釣 魚 大 全 」文春文庫
太 田 蘭 三 「浪 人 釣 り 師 今昔」角川文庫
盛 川 宏「食いしん坊釣り日記」 福武文庫
夢 枕   獏「 鮎   師 」講談社文庫
矢 口 高 雄「釣 り キ チ 旅日記」講談社文庫
畑  正 憲「ムツゴロウの大漁記」文春文庫

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