春は山菜、夏は川釣り、秋はキノコと、野遊びを目一杯楽しんでいた信州の叔父が先週亡くなった。
上高地を流れる梓川で岩魚釣りをして一夏を暮らしたことや、山で何度も熊と出会ったことなど、
酒飲み話に聞かされた。
叔父は70歳、葬儀はなんと105歳の大老師によって執り行われた。ありがたがる年寄りが多かった。
「私の葬式はこの人に頼みたくないかも・・・・・」とは、帯にある読者の声。
「釣り坊主がゆく」 ひぐち日誠
山と渓谷社 1600円 2002.2.10
著者は日蓮宗の由緒正しいホンモノの坊さん。死者も出ると言われる荒行の数少ない達成者でもある。
天台宗の「千日回峰」という行はあまりにも有名だが、こちらの荒行は100日間もお堂に籠もって不惜身命を体得するというもの。
一年のうち岩魚を求めて100日以上も源流域でキャンプ生活をし、ザイルを使って渓谷を登り降りしていた著者にとっては、お堂に閉じこめられての行のほうがよほど修業になったかも、
と、まあサラッと言えるのも、著者の軽妙な筆致に乗せられてのこと。
フライフィッシングで源流域を釣り歩き、釣った岩魚は祖父の遺言で食べることが「供養」だと、焼き枯らして一束二束と持ち帰る。「キャッチ&リリース」なんて言葉はどこ
にも出てこない。釣りはフライ、エサ釣り、海釣り、
なんでも有り。囲碁・将棋の勝負事、競輪・競馬・競艇のギャンブル、
音楽バンドと多趣味な坊さんの破天荒?な釣りエッセイ。ここまでやったらもうほとんど
「解脱」の境地。「お釈迦様ゴメンナサイ。今日も釣(や)っちゃいました。」
久々に痛快無比!爽やかな読後感に浸った。
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