安曇野風来亭 道楽日誌 操業日誌 戦国山城散歩 キノコ図鑑 小平漁協書籍部 自己紹介

小平漁協の通勤娯楽

2000.8.28

釣りに行ってますか?  昨日は秋川と多摩川を偵察、釣り人の数の多さと一向に竿が曲がらぬ気怠い雰囲気ににすっか り意欲を失ってしまいました。そのすぐ川下では夏休みの子供達が歓声をあげて水遊びをしていました。

           
「蛍の河・源流へ」伊藤桂一 講談社文芸文庫 1200円 2000.7.10

 第46回直木賞受賞作品の「蛍の河」他、 全10編の短編集。昭和44年に発表した「源流へ」は集中最も長い作品。重症の神経痛と耳鳴りに悩まされ続け、 いつも身体の中に不快感を抱き続けてきた主人公が整体 療法による体質改善に よって徐々に快復していく自身の症状、それにつれて充実していく 精神と湧出する生命力の様を事細かに観察、復調のメドを推し量るかのようにあれこれと釣りを試 みる。
 やがて源流域での厳しい釣行にも耐えられるくらいに健康も回復、不調であった頃の逃避的で破 滅的な遡行感覚に変わって、周囲の自然や万物の生命感と融合した充足感と開放感を得るに至る。  
 
 「昨日、ぼくのみた源流は、静寂世界の極限であり、人間と自然が、 全き原初的感情を以て溶け合える世界である。その視野の一端を過ぎたものが、 事実、熊であったかどうかは問題ではない。ただ、ぼく自身が、 熊の迷い出てくるような環境に、無垢な自然のように身   を置いていた、ということに意味がある。生きていること、というより、生きてゆくこと、に充実した気持ちを持ち、清涼な使命感の湧くのを知り、陽のまぶしさだけを受けとめて いたあのときのぼく自身の姿に、ぼくははじめて、 自ずからなる愛惜の情を覚えてきたのである。」

 自身の肉体と精神との平衡を釣りに絡めて描いた私小説風釣り小説。久々に読み応えのある作品 と出会った。